Design insight

世界の某都市でプロダクトデザイナーとして活動しています。デザイナーとして印象に残ったデザインに対し、自分の意見や分析を書いていきます。

Balumuda the pot

 

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独自の視点で家電の開発を続けているBalumuda のthe pot です。

まず初めにbalumuda というブランドについての私の印象を言っておくと、非常に素晴らしい会社だと思っています。大手のメーカーは同じような商品性やデザインで個性のない製品を作り続けている中で、balumuda は会社としての視点を持って開発をしているように感じるからです。

どの製品も、ただ表のデザインをよくするだけでなく、エンジニアリング的な視点でも工夫を盛り込んで、ユーザー目線でしっかり恩恵が感じられるような開発がされていると思います。

そして今回のthe potですが、balumuda らしく他メーカーが出している電気ポットとはまず全く違う見た目をしています。大きく違うのは注ぎ口と取っ手部分にあるライトでしょう。

 

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注ぎ口はドリップコーヒーがやりやすいようになっているようです。そして私が気に入っているにはこのライトに部分。 電球のような光り方をするライトが配置されており、キッチンに置かれるものとして単なる家電にしたくないという思いが感じられます。普通であれば誰もがやっているLEDを何の疑いもなく入れるところで、あえてこのライトを選択しているところがこの商品をよりユニークなものにしていると思います。

 

ただ私はもっとアナログなポットに近づけてもよかったのではと思います。

例えばこちらのポット。

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電気ポットではないですが、全体的な印象はthe potによく似ています。しかしハンドル部分から本体部分の結合部分が非常にスッキリしてシンプルであるが故に、よりアナログな仕上がりになっていて、キッチンツールとしての印象が強く感じます。

もちろんthe potの方は電気ポットなので技術的な制約で多く、必要な構造があるのだろうというのは推測できますが、balumuda の製品であるが故にディテールに関してもより明快な表現を期待してしまいます。

 

そういう細かいところはあるにせよ、これまで独自の視点でデザイン的にも素晴らしい製品を生み出し続けているbalumudaの今後のラインナップがどう変わっていくのか、非常に楽しみです。

 

Samsung Serif TV

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Samsungから2015年に発表されたbouroullec brothersデザインのSerif TV。

各メーカーがインテリアコンシャスなテレビのデザインにトライし、結果的に非常にテクニカルなデザインに落ち着き失敗し続けている中、この思い切った家具的なアプローチは、bouroullec brothersと言う外部の有名デザイナーが手がけたということで世に出ることができたのだろう。

なぜなら多くの大手メーカーはここまで思い切ったデザインを商品まで持っていく様な組織構造や価値観を持ち合わせていないことが多いからである。日本のメーカーの例で言えば、まず普通に売れるコンサバな製品を作ることに重きを置いており、Serif TVのような限られた層にしか響かない商品は開発しない風潮にある。

そして、そのサイクルを長年繰り返しているデザイナーやディレクターの価値観は、あくまで普通の商品の範疇で、ちょっと個性があるくらいのデザインを追求する様に無意識的に洗脳されていくのである。

これは非常に自然な流れだと思う。必要とされるデザインを追求し、それに集中して行くということである。

しかし、離れた目線でそういったテレビがホントに部屋に置くものとしてふさわしいのか。何十年も同じ方向性で作られ続けていていいのかという疑問を抱くのも事実であり、今回のSerif TVはそういう問題提起になっていると思う。

 

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私はこのテレビを実際に見るまではそれほど印象に残っていなかったが、先日実際に見る機会があり、テレビは全社がやっている様にどんどん薄くなる必要があるのか?ベゼルは細くなくてはいけないのか?置かれ方は多くのテレビの様にスタンドしかないのかなど、多くの疑問を投げかけてきた。

また、非常にハイテクな高解像度のパネルを、家具の様なアナログなフレームが包んでいるというコントラストが興味深く印象に残った。

私が見た印象では大型のテレビはこのデザインではもたないと感じたので、発表されているサイズが限度であろうと思う。

しかし今後他社から、ここまで思い切った商品で無いにしても、家具の仲間として部屋に置いておかしく無い、ただの黒や金属のフレームでは無いテレビが出てきてほしいと感じさせる、そんな商品だと思う。

 

Laufen Val

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スイスのバスルームプロダクトのブランド、Laufenから発表されいている印象的な形の洗面器です。

 

機能と技術の可能性を表現したデザイン

ぱっと見で明らかに違うこの洗面器は石鹸を置く場所が一体になっていて、別にソープディッシュを置く必要がなく洗面周りがすっきり使えます。 ただ今まで石鹸を置く場所がある洗面器は数多くありますが、この洗面器は何が違うかというと、Saphire Ceramic という非常に強度の高い素材でできており、非常に薄い縁取りのようなデザインを実現していて、石鹸を置いた際も水が外に飛びにくい形状になっています。

特徴的なデザイン故、一見インパクトを狙ったデザイン重視のプロダクトにも見えなくは無いですが、その高度な技術から生まれる可能性をうまくに日常生活のシーンに落とし込んでいると思います。もちろんもっと一般的なデザインも可能でしょうが、その技術の可能性をメッセージとして発信したいというブランドの意図が、このデザインに至った理由でもあるのかと思えます。

 

このデザインとは関係無いですが、海外に出て気づくことの一つとして、日本のマーケットと海外のマーケットがかなり違うということがあります。そしてバスルームはその一つです。日本では主にTOTO, LIXIL を思い浮かべますが、海外、特にヨーロッパには数え切れないほどのバスルーム周りのメーカー、ブランドがあり、デザインのクオリティも非常に高いです。一般の家にもそれなりのものが設置されており、この辺りのデザインのスタンダードは大きく差があると言えます。

 

デザイナー 

デザインはKonstantin Grcic 、MagisのOneという椅子が有名なドイツのデザイナー。

ビジュアル的なインパクトが強いデザインが多い印象ですが、今回の洗面器のようにエンジニアリング的にチャレンジをしているプロジェクトも多く、そういった視点でも興味深いデザイナーです。

 

Bang and Olufsen Beoplay A1

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Bang and Olufsen は言わずと知れた超デザインオリエンテッドなオーディオブランドです。そのブランドから発売された小型のポータブルスピーカーがA1です。

 

プロポーション

まずデザイン的に気になるところはそのスピーカーの開口方向から生まれる独特のプロポーションです。 通常のスピーカーは小型であっても横方向に音を出す構造になっていることがほとんどなので、横方向に音が出る形、例えば円柱とか、立方体をベースにしていることがほとんどです。

実際A1も円柱をベースにしていると言えなくは無いですが、上に開口を持ってくることで高さが低い独特のプロポーションを成しています。もちろん開口を上に持ってくるためにスピーカーコーンを上に向ける設計をして、それで360度方向にハイエンドオーディオブランドとして恥じない高音質な音を実現するために見えないところでの工夫は重ねられていると思います。

見た瞬間に他のスピーカーとは違う印象を与えてくる要因にまずこのプロポーションが挙げられると思います。しかしそれはただデザイン重視の形だけのものではなく、360度で音を楽しめるポータブルスピーカーとして必然な形で成り立っているところに機能美を高次元に実現し続けるB&Oらしさが出ていると思います。

 

ディテール

ボディを上から見てパーティングラインが見えないアルミを絞ったような構成になっていることで、アルミの塊に穴を開けたような印象を与え、しっかりとした上質な製品に感じさせていると思います。またその穴から見えるアルミの厚さ、布地の選定も、目に近距離で触れることを想定された上質感を感じさせる処理がなされていると思います。

また、ポータブルスピーカーとしてストラップをつけ、質感の高いロゴバッジをつけていることでさらにポータブルスピーカーらしさと、ポータブルであるからこそヘッドフォンやイヤフォンのようなパーソナルな印象を与えている部分もこの製品の魅力だと思います。

 

デザイナー 

デザイナーはCecilie Manz

Bang and Olufsen のBeolit 12, 15, Beoplay A2も手掛けたデザイナーで、家具やテーブルウエアを中心にデザインしているコペンハーゲンのデザイナー。機能的な中に時代の素材をうまく取り入れ、独特のエモーショナルな感覚でデザインをしている印象です。

彼女のB&Oの作品の中でもこのA1が私は最も好きです。

ブログを書くに至った理由

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私は世界の某都市でプロダクトデザイナーとして活動しています。

デザイナー歴は10年に届くかといったところです。今回の記事ではそんな私がこのブログを書く理由について書いていきます。

デザインの世界では世界中で毎日新しいデザインが次々に生まれ、インターネットを通して世界中に発信されています。私は仕事柄毎日その新しいデザインに目を通し、情報として入れています。ただそれは、そのひとつひとつを理解しているというよりは、情報が通り過ぎていくという感覚です。

その通り過ぎていく情報を、少し時間をかけて考え、理解しようとすることでそのデザインについての自分の見解を深め、記していきたいと思います。

 

それではなぜそういう考えに至ったかというと、それは私が働いている環境に由来します。私は世界の某都市で外国人に囲まれて活動しているのですが、周りの同僚たちは非常に議論好きでいろんなことに自分の意見を持っています。

 

そんな彼らに対して私はあらゆることに対してそこまで強い意見を持っていないことに気づきました。これはもちろん私個人がその事柄に対して強いこだわりがないと言ってしまえばそれまでですが、日本でこういうことを感じたことはありませんでした。

では何が違うのかと考えた時、今いる環境の人たちに比べ、育ってくる環境で文化的にそれほど議論ということを日常的にして来ていなかったことや、協調することを大切にする文化的側面にも原因があるのではないかと感じています。

世界の中には自己主張が強いことに対して非常にポジティブでありリスペクトを抱く人たちがいて、逆に多くの事柄で周り同調しやすい人たちは意見がないと見なされ、強く意識されることはありません。

 

つまりこのブログでひとつひとつのデザインについてより深く考え、意見を強く持つことで自分のデザインの価値観をより強くクリアに、自分がデザインを見る際のビジョンを明確にしていきたいというのが意図です。

もちろん違った意見を持つ人もいるでしょう。しかしそれはそれで問題無いのです。重要なのは正しいか正しく無いかよりも自分なりの意見を強く持ち、それを発言していくことだと思います。